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お酒は睡眠に良い?悪い?科学的根拠からわかる本当の影響

アルコールは寝つきを良くする一方で、REM睡眠の抑制や中途覚醒の増加など睡眠の質に影響を与えることが研究で示されています。

「お酒を飲むとすぐ眠れる」「寝酒をしないと寝つきが悪い」こうした感覚は、多くの人が経験しています。

実際、アルコールには中枢神経を抑制する作用があり、入眠までの時間(入眠潜時)が短くなることは複数の研究で確認されています。

しかし同時に、睡眠後半の中途覚醒の増加、REM睡眠の抑制、いびきや睡眠時無呼吸の悪化、夜間頻尿の増加といった影響も報告されています。

つまり、寝つきと睡眠の質は別の問題です。主観的に眠れたと感じていても、客観的な睡眠構造は変化している可能性があります。

本記事では、アルコールが睡眠に与える影響について、睡眠段階(REM・ノンレム)、呼吸への影響、ホルモン変化、公的な飲酒基準までを整理し、科学的根拠に基づいて解説します。

寝酒を続けることが本当に合理的なのかを、データから確認していきます。

就寝前の飲酒と睡眠

もくじ

寝酒はなぜ「眠れる」と感じるのか?

医者と睡眠のイメージ

アルコールを摂取すると眠気が強まり「いつもより早く眠れた」と感じることがあります。この現象は主観的な印象ではなく、生理学的な作用に基づいています。ただし、その作用は睡眠全体を改善するものではありません。

アルコールの鎮静作用と入眠潜時の短縮

アルコールは中枢神経系に作用し、抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の働きを増強します。
GABAは脳の覚醒活動を抑える方向に働くため、意識レベルが低下し、眠気が生じます。

Roehrs & Roth(2001)のレビューでは、就寝前のアルコール摂取により入眠潜時(布団に入ってから眠るまでの時間)が短縮することが報告されています。

この作用により、寝酒をするとすぐ眠れるという主観的評価が形成されます。ただし、これはあくまで入眠までの効果であり、睡眠の深さや持続性を保証するものではありません。

アルコール代謝と睡眠後半の覚醒増加

アルコールは体内で分解される過程で、生理的な変化を引き起こします。血中アルコール濃度が低下し始める睡眠後半では、交感神経活動が上昇し、心拍数や血圧が変動することが確認されています。

Ebrahimら(2013)の総説では、アルコール摂取後の睡眠後半に中途覚醒が増加し、睡眠が断片化することが示されています。その結果、夜中に目が覚めやすくなり、総睡眠時間が短くなる場合があります。

主観的満足感と客観的睡眠構造の違い

ポリソムノグラフィー(睡眠検査)による測定では、アルコール摂取後にREM睡眠が抑制されることが報告されています。REM睡眠は記憶の固定や感情調整に関与する段階です。

つまり、「早く眠れた」という主観的な満足感があっても、睡眠の質(睡眠段階の構造)は変化している可能性があります。入眠のしやすさと、回復に寄与する睡眠の質は別の指標であることが研究から示されています。

アルコールは眠らせる作用を持ちますが、質を高める作用が確認されているわけではありません。この点を区別して理解することが重要です。

睡眠構造(REM・ノンレム)はどう変化する?

睡眠中の呼吸トラブルに注意

睡眠は単に「寝ている状態」ではなく、いくつかの段階を周期的に繰り返しています。大きく分けると、ノンレム睡眠(NREM睡眠)とレム睡眠(REM睡眠)の2種類があり、約90分周期で一晩に4〜5回繰り返されます。

アルコールはこの睡眠構造そのものに影響を与えることが、ポリソムノグラフィー(終夜睡眠検査)を用いた研究で確認されています。

REM睡眠の抑制とその影響

アルコール摂取後の睡眠では、REM睡眠が有意に減少することが報告されています。REM睡眠は、夢を見やすい段階であると同時に、記憶の固定や感情の整理に関与するとされています。

アルコールによってREM睡眠が抑制されると、睡眠後半でREMのリバウンド増加が起こることもあります。これは、抑制されていたREM睡眠が後半に集中して出現する現象です。

その結果、後半の睡眠が不安定になり、覚醒しやすくなることが確認されています。「夢をあまり見なくなった」「後半に何度も目が覚める」といった変化は、この睡眠構造の変化と一致します。

徐波睡眠(深い睡眠)の前半増加と後半の断片化

アルコール摂取後、睡眠前半では徐波睡眠(深いノンレム睡眠)が一時的に増加することが報告されています。
徐波睡眠は身体の回復や成長ホルモン分泌と関連する段階です。

このため、「ぐっすり眠れた」という感覚が強まることがあります。

しかし、アルコールが代謝される睡眠後半では、徐波睡眠が減少し、覚醒や浅い睡眠が増加します。
これにより睡眠効率(実際に眠っていた時間の割合)が低下し、睡眠が断片化します。

つまり、アルコールは睡眠前半を一時的に深くする一方で、後半の安定性を損なう傾向が確認されています。
結果として、一晩を通した回復効率は低下する可能性があります。

いびき・睡眠時無呼吸への影響

いびきの悩みは睡眠の質を下げる

アルコールは中枢神経を抑制するだけでなく、呼吸を維持する神経活動や上気道の筋緊張にも影響を与えます。

そのため、いびきや睡眠時無呼吸の発生頻度や重症度に変化が生じることが、睡眠検査(ポリソムノグラフィー)を用いた研究で確認されています。

上気道筋の弛緩と気道閉塞の起こりやすさ

睡眠中、咽頭周囲の筋肉は覚醒時よりも緊張が低下します。アルコールはこの筋緊張低下をさらに強める作用を持ちます。

上気道が狭くなると、吸気時に陰圧がかかり、気道が一時的に潰れやすくなります。この状態が部分的な閉塞であればいびきとなり、完全閉塞に近づけば無呼吸へ移行します。

実験研究では、アルコール摂取後に上気道抵抗が増加し、いびきの発生頻度が増えることが報告されています。特に仰向け姿勢では重力の影響も加わり、閉塞が起こりやすくなります。

無呼吸指数(AHI)の上昇と酸素飽和度の低下

無呼吸低呼吸指数(AHI)は、1時間あたりの無呼吸・低呼吸イベント数を示す客観的指標です。睡眠時無呼吸症候群の患者では、アルコール摂取後にAHIが上昇することが確認されています。

アルコールは覚醒反応(呼吸停止時に脳が目覚めて呼吸を再開させる反応)を鈍らせるため、無呼吸の持続時間が延びる場合があります。その結果、血中酸素飽和度(SpO₂)がより低下しやすくなります。

酸素低下が繰り返されると、交感神経活動が慢性的に亢進し、血圧上昇や心血管系への負荷が増大することが報告されています。これは長期的な健康リスクと関連する生理的変化です。

無自覚者でもリスクが高まる理由

睡眠時無呼吸の診断を受けていない場合でも、軽度の気道狭窄がある人は少なくありません。アルコール摂取により一時的に閉塞傾向が強まり、無呼吸イベントが増加する可能性があります。

自覚的な眠気が強くなくても、夜間の酸素低下や微小覚醒が増えている場合があります。

そのため、「いびきが強い」「日中に強い眠気がある」「起床時に頭痛がある」などの症状がある場合は、就寝前の飲酒を避けることが推奨されています。

アルコールは一時的に眠気を強めますが、呼吸の安定性という観点ではリスク因子となり得ることが、客観的測定で示されています。

夜間頻尿とホルモンへの影響

夜にトイレに行っているイメージ

「お酒を飲んだ日は夜中にトイレで目が覚める」この現象には、生理学的な理由があります。アルコールは腎臓の働きやホルモン分泌に直接影響を与えるため、睡眠の持続性にも影響が及びます。

抗利尿ホルモン(バソプレシン)の抑制

通常、夜間は抗利尿ホルモン(バソプレシン)が分泌され、尿の産生が抑えられます。これにより、睡眠中の排尿回数は自然に減少します。

しかしアルコールは、このバソプレシンの分泌を抑制することが確認されています。その結果、腎臓での水分再吸収が低下し、尿量が増加します。これは利尿作用と呼ばれ、飲酒後に排尿回数が増える生理的理由です。

夜間覚醒と睡眠効率の低下

尿意による覚醒は、睡眠を物理的に中断させます。一度覚醒すると、再入眠までに時間がかかる場合があります。

睡眠効率(床に入っていた時間のうち実際に眠っていた割合)は、夜間覚醒が増えることで低下します。特に高齢者では、もともと夜間覚醒が増えやすいため、アルコールの影響がより顕著になることが報告されています。

脱水と循環動態の変化

アルコールによる利尿作用は、体内水分量の低下を引き起こします。軽度の脱水は口渇や心拍数の変動を伴い、睡眠の安定性に影響を与えることがあります。

さらに、血中アルコール濃度の低下に伴う自律神経の変動が重なることで、睡眠後半の覚醒が増えやすくなります。

アルコールは入眠を促進する一方で、ホルモン分泌と水分調整機能に影響を及ぼし、結果として睡眠の連続性を損なう要因となります。

公的機関が示す飲酒基準と睡眠への配慮

睡眠などのデータを表しているイメージ

アルコールが睡眠に影響を与えることは研究で示されていますが、ではどの程度なら許容範囲なのかという疑問が生じます。ここでは、公的機関が示している飲酒量の基準と、睡眠への影響を踏まえた実践的な考え方を整理します。

日本における節度ある飲酒量

厚生労働省は節度ある適度な飲酒として、1日あたり純アルコール約20g程度を目安としています。これは健康日本21でも示されている基準です。純アルコール20gの目安は以下の通りです。

  • ビール(5%)約500ml
  • 日本酒 約1合(180ml)
  • ワイン 約200ml
  • 焼酎(25%)約100ml

ただし、この基準は生活習慣病予防を含めた総合的健康指標であり、睡眠への影響を完全に回避する量を示すものではありません。

睡眠を守るための摂取タイミング

アルコールは摂取後に血中濃度が上昇し、その後代謝により低下します。睡眠後半の覚醒増加は、血中濃度が低下するタイミングと重なりやすいことが報告されています。

そのため、就寝直前の飲酒は睡眠構造の乱れを招きやすいとされています。就寝の数時間前までに摂取を終えることが、睡眠への影響を軽減する方法として示されています。

睡眠障害がある場合の注意

睡眠時無呼吸症候群、不眠症、夜間頻尿などの症状がある場合、アルコールは症状を悪化させる要因となり得ます。特に無呼吸傾向がある場合、就寝前飲酒は推奨されていません。

公的資料では、睡眠障害のリスクがある場合は飲酒習慣の見直しが必要であると示されています。

アルコールは適量であっても睡眠構造に影響を与える可能性があります。基準量を守ることに加え、「量」「頻度」「タイミング」を総合的に考えることが重要です。

まとめ|寝酒は「眠らせる」が「整える」わけではない

睡眠時間のポイントまとめ

アルコールは中枢神経を抑制し、入眠までの時間を短縮させる作用が確認されています。そのため、「早く眠れた」と感じることは生理学的に説明できます。

一方で、睡眠後半の覚醒増加、REM睡眠の抑制、いびきや無呼吸の悪化、夜間頻尿の増加なども研究で報告されています。これらは主観ではなく、睡眠検査による客観的測定で示された変化です。

特に重要なのは、「入眠しやすさ」と「睡眠の質」は別の指標であるという点です。寝つきが良くても、睡眠構造が変化すれば回復効率は低下する可能性があります。

厚生労働省が示す節度ある飲酒量(純アルコール約20g/日)は健康全体の目安であり、睡眠への影響を完全に防ぐ基準ではありません。量だけでなく、摂取のタイミングや頻度も考慮する必要があります。

アルコールは「眠らせる作用」を持ちますが、「睡眠を整える作用」が確認されているわけではありません。
睡眠の安定を優先する場合は、飲酒習慣そのものを見直すことが合理的な選択となります。

参考資料・出典

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